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2019.11.27

今月の一品(56) スフィンクスのアミュレット

 今回は金の護符を取り上げます。博物館の入口近く、中近東の風物のスライドを映している壁の裏側の展示ケース内にある小さな金細工の一つです。

 スフィンクスとタイトルが付いていますが、エジプトのピラミッドの傍にいるスフィンクスとは少し雰囲気が異なっています。姿勢は同じ腹ばいですし、胴体もライオンのような大型のネコ科動物を思わせる造りになっていますから、スフィンクスではあるのですが、頭部がいささか異様です。ピラミッドのスフィンクスは、ファラオを思わせる威厳に満ちた人の顔をしていますが、こちらの像は、下膨れの何とも変な顔になっています。これは古代エジプトの神様の一人、ベス神の顔だそうです。インターネットでベス神を調べてみると、確かに不格好な姿形の神像が出て来ます。小人でガニ股、ライオンの毛皮を身にまとうなどという説明もあって、この妙な顔がベス神の顔だというのも納得です。

 このベス神、古代エジプトの正統な神様の系譜からは外れていたようで、古代エジプト文化を解説した書物などでは、殆ど記述が無く、あっても、ごく限られています。ウィキペディアなどでは、エジプトの辺境・ヌビアの土着の信仰の対象だったと説明されていますが、よく解りません。ただ、こんなにも容貌魁偉で、しかも正統派でない割に人気があったようで、人が弱っている時に悪霊から守ってくれる「人間の友」として、特に妊娠中の女性などの守り神として、あちこちに祀られていたと言われます。そのせいか、色んな場所で発見されるらしく、ルーブル美術館や大英博物館にもその像があります。

 そういう訳で、この神様の本拠地は、エジプトなのですが、この小品は、イラク南部で発見された紀元前6世紀の作品と記録されています。紀元前6世紀のイラク南部には、新バビロニアやアケメネス朝ペルシアという勢力が存在していて、この両王朝とも、エジプトと戦争をしたと書かれていますから、平時でも色々交流があったであろうことは、容易に想像できます。何でもお願いできる神様としてのベス神も、そんな交流の中でメソポタミアに伝わったのでしょう。

 気安く色んな事をお願いできる便利な神様ですから、お守りとして身に着けるようになったのもうなずけます。この金細工も、腹ばいになった胸の所からお尻に向けて、細い穴が通っていますから、ここに紐を通して頸からぶら下げるなどしていたのでしょう。当館の保管リストには、トルコ石の象嵌、あるいはその痕があると記されていますが、素人目には、どう眼を凝らして見ても判りません。でも、トルコ石の象嵌の施された金製品のお守りを首からぶら下げるなんて、落っことさないか心配で、首から肩にかけてコチンコチンに凝りそうな気がします。

 

令和元年11月                          羊頭

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