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2019.10.28

今月の一品(55) 神獣飾付祭具

 今回は、未だ展示されていない物を取り上げることにしました。当館の収蔵庫には、展示スペースの関係などから、展示されていないけれどもなかなか興味深い品々があるので、そういう物もこれから時々取り上げたいと思います。

今回の品については、よく似た作品が、「工芸品の歴史」のコーナーの青銅製品の所に、同じ「神獣飾付祭具」という名前で展示されています。ただ、現在展示されている物は、全体的に縦長でほっそりと作られているのに対して、これからお話ししようと思っている作品の方は、やや大型で、全体の作りも分厚く、重量感があります。いずれは、これら2つの作品を並べて展示して、色々見比べていただきたいと思っております。

 神獣飾付祭具と呼ばれている理由は、今展示されている物を見てもお解りいただけるとおり、中央に神様が立っており、その両脇に怪獣が配置されていることに由来します。今回の作品では、中央の神様が左右の怪獣をそれぞれ片手で締め上げているという形が左右対称の構図で作られています。裏側にも、同じ図柄が彫られています。前から見ても後ろから見ても同じ印象を与えたいと考えて作られたということなのでしょうか。ペルシア・ルリスタン地方からは、この他にも同じような青銅製の神像類がよく出土するようで、いずれも紀元前8世紀から7世紀ころの作品と推定されています。

 実は、この品を入れてある保存箱には、「青銅スラオシヤ神像」という札が付いています。スラオシヤというのは、ゾロアスター教の神様の名前です。大勢いるゾロアスター教の神様の中でそんなに格が高くはないようですが、ミスラ神、ラシュヌ神とともに、人間の死後の審判において判定者の役を果たすことでよく知られていたようです。エジプトのアヌビス神やキリスト教の大天使ミカエルのようなイメージでしょうか。ただ、この像が何故スラオシヤ神と判定されたのかは、よく解りません。怪獣の下側に、スラオシヤ神のシンボルとされる鶏がのぞいているという説明もありますが、スラオシヤ神でなければ他の鳥と見ても良いことになりますから、ゾロアスター教に詳しくない身としては、判断しかねます。

 とは言え、大帝国が出現する前の紀元前8世紀から7世紀のペルシアで、これだけ手の込んだ作品を作ったのですから、当時行われていたゾロアスター教のための祭具と考えるのは納得できる説明です。でも、その具体的な使われ方は、出土状況などの記録が見当たらないため謎です。副葬用祭具とする解釈もあるようですが、それならそれで、どういう考えに基づいてお墓に置いたのかなど、更なる疑問が出て来ます。現在でもある程度の信者がいるゾロアスター教ですから、聞いてみれば何か解るかも知れません。

 

令和元年10月                                 羊頭

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