公益財団法人 中近東文化センター|中近東の歴史的文化の研究と発表

ニュース

ニュース

HOME > ニュース一覧 > 今月の一品(41)王女像石彫

2018.08.31

今月の一品(41)王女像石彫

 今月から登場した王女様の浮彫です。展示室の入口で、以前トトメス3世像浮彫のあったところに立っています。でも、この浮彫をご覧になった方は、この奇抜な髪形をした人物がどうして王女様と解るのかと、不思議に思われることでしょう。

この作品の由来を尋ねると、展示札にもあるように、テーベのカルナック神殿跡から出土したと記録されています。古美術収集家の石黒孝次郎氏は、そこから遡って、そもそもは、アクエンアテン王時代のアマルナの王墓を飾る壁面彫刻の一部であったと述べています。そのことは、この石の寸法などから言えるのだそうです。その壁面彫刻が、アクエンアテン王の没後に取り壊され、カルナック神殿の礎石として使われ、そこで見つかったため、カルナック出土とされたということです。石黒氏は更に、この浮彫の図柄が、アマルナ出土のアクエンアテン王とネフェルティティ妃に率いられた王一家のアテン神礼拝図と近似しているとして、この女性を後日ツタンカーメンの妃となったアンケセナーメンであろうと推定しています。確かに、この像の右側には、人物なのかお供え物なのかは判然としませんが、何かの存在が描かれており、アテン神礼拝図と似た構図だった可能性はうかがえます。この石彫作品は、発掘後の履歴もはっきりしていて、石黒氏の推理には他の根拠もありそうですから、王女像と呼ばれるのも、荒唐無稽なことではないようです。砂岩という比較的柔らかい石に刻まれたこの浮彫が、礎石として使われた後も、それほど壊れずに残っていたことは、かなり幸運だったと言えるでしょう。

 この像が描き出しているアマルナ時代の女性の姿は、なかなか特徴的です。まず目につくのは、特異なヘアスタイルです。頭の相当部分を剃った上で、残りの髪を4本に編んで垂らしています。写実的とされるアマルナ時代の作品ですから、当時は本当にこんな髪型の女性がいたのでしょう。次に目立つのは、後ろに突き出た頭の形です。ツタンカーメン王の頭蓋骨も後頭部がかなり突き出ていましたから、これはアクエンアテン王の血統の遺伝的特徴なのかもしれません。鼻筋や唇などを含めた顔立ちも、お母さんのネフェルティティが現代でも通用する美女として有名なのに比べて、あまり垢抜けしない雰囲気に描かれています。ツタンカーメン王の墓から出たアンケセナーメンの姿と比べても、かなりかけ離れたイメージに見えます。この像が本当にアンケセナーメンだとしたら、王妃を描く時の形式主義とアマルナ芸術の写実性の対比として、なかなか面白い例ということになりますが、どうでしょうか。

 でも、アイーダの舞台にこんなヘアスタイルの女性が登場したら、ちょっと勘弁して欲しいような気がします。

平成30年8月       羊頭

ニュース一覧

PAGETOP