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2018.04.30

今月の一品(37)緑釉双口ランプ

「工芸品の歴史」コーナーの奥、陶器類の展示してある一角のケースの中に置かれているかなり大ぶりのランプです。陶器ですが、濃い緑の釉の色合いやドッシリとした形状は、青銅器を連想させます。この作品の取得についての記録はハッキリしていませんが、模様や形式から判断して、1~3世紀の帝政ローマ時代の作品であることはほぼ間違いなく、トルコで出土したとされています。この型のランプはエジプトで多く製作されたとする専門家もいますが、そうだとすると、当時のローマ帝国内の物流の一端が窺われることにもなります。

中央に丸い灯油を溜める胴があり、その表面に人の顔が浮き出しています。これは、髪の毛が蛇で、その見る者を石に変えたと言われるギリシア神話の怪物メデューサの顔だそうです。少し見難いのですが、その顔を取り囲んでうねうねとのたうった物が浮き出しており、蛇の頭髪を描写しているようです。そんなおっかないものをどうしてランプの飾りに用いたのかという気もしますが、ギリシア神話では、ペルセウスによって切り取られたメデューサの首は、その死後も見る者を石に変える力を失わなかったとされており、女神アテナの楯に取り付けられて、無類の防御力を発揮したということですから、一種の強いお守りと考えられていたとしても不思議ではないようです。

ランプの灯の燃え口は、下方に二本突き出ており、それぞれの燃え口の根元には、1頭ずつ馬の首が付いています。これらの馬の首も、メデューサの首が切られた時に飛び散った血から生まれた天馬ペガサスを表していると解釈されています。

斜めに突き出している把手はアカンサスつまりアザミの葉のデザインになっています。この形のランプは、帝政ローマ期に多く作られたそうですが、ここまで丁寧に作られたものは稀だと、専門家は述べています。アカンサスの葉は、その整った荒々しさが力と美を併せ表現するのに好都合なのでしょうか、古代ギリシア建築の柱頭から始まって、現在に至るまで、西欧の装飾によく使われています。ただ、一つ気になるのは、この把手の取り付け部分が華奢で、持ち運んでいると簡単に折れてしまいそうに見えることです。全体の作りの重厚さや色合いの落ち着いた感じなどを考え併せれば、このランプは、決まった場所に置いて、装飾用の実用具として使ったと考えるのが合理的だと思います。

でも、ほの暗いランプの明かりの底から、蛇の髪毛をまとったメデューサが睨んでいるお家なんて、いくら魔除けとは言っても、やっぱりどことなく不気味で、敬遠したくなりますネ。  

平成30年4月 羊頭

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