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2018.03.30

今月の一品(36)ホルスを抱くイシス神

「工芸品の歴史」コーナーの入り口にある陶器とファイアンスのケース内に展示されています。この「ホルスを抱くイシス神」というテーマは、古代エジプト末期のプトレマイオス朝時代にかなり広く製作されたもののようで、同じような像が沢山あります。当博物館にも、他に三体、「麦とパン」のコーナーのファイアンス小像群の展示ケースの中に並んでいて、8,9,10と番号が振られています。全て淡青色のファイアンス製品で、椅子に座った優しいお母さん(イシス神)が、左手で赤ちゃん(ホルス)の頭を支え、右手で左の乳房を赤ちゃんに含ませようとしているという、母子の穏やかな情景が描かれています。赤ちゃんは、おなかや胸の彫りから見て、少し太り気味で、可愛らしいおへそを見せて踏み台に足を乗せ、手をお母さんの膝についています。

 このような基本的な造形は全ての像に共通しているのですが、個々の像を細かく見ると、色々な違いが見つかります。陶器とファイアンスのケースに収められている像は、たびたび本欄に登場している石黒孝次郎氏がアムステルダムで収集したという記録があり、頭頂部の冠が失われているほか、イシスの右足先も欠落しているにもかかわらず、ある程度の評価額が付けられています。他方、「麦とパン」のケースに入っている三体は、由来が必ずしもはっきりしません。壊れやすいイシス神の玉座冠もキチンと付いていて、完形を保っていますが、殆ど評価額が付けられておらず、後世の模倣品と受け止められているようです。

 具体的な描写の違いとしては、石黒作品や8番と10番のイシス神の髪は、鎖風に編んだお下げ髪なのに対して、9番のイシス神は、単純に長めのおかっぱ頭です。スカートも、8番のイシス神のものだけ裾に模様が浮き出ています。

 ホルスについても、石黒作品のホルスはかなり後傾してイシスの手にもたれかかっていますが、8番のホルスは直立的な姿勢で膝に座っています。更に、8番のホルスは頭に鉢巻のようなものをしているのに対して、他のホルス像は、そのような物をしているのかいないのか判然としません。いずれのホルスも前額に小さな突起がある点は共通しています。ホルスは、長じて隼の頭を持った姿で表される神様で、古代エジプトの王権の守護者と認識されていましたから、この突起はエジプトの王権の正統性を象徴する存在としてのコブラを表しているのかもしれません。

 ホルスという神様は、王様の後ろ盾になるくらいですから、古代エジプトの神話の世界ではかなり強力な存在として語られますが、その子供時代にはこんな甘えん坊の姿をしていたとは、何ともほほ笑ましいことです。

平成30年3月 羊頭

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