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2016.06.29

今月の一品⑮母子像と楽人座像

 今回取り上げるのは、一対の粘土人形です。コプト織の展示の角を曲がった所に並んで座っています。9~10世紀のイランの作品ということですから、アッバース朝ペルシアの時代に作られた物です。アッバース朝は、中東地域全域を支配した大帝国で、ラスター彩陶器が発展するなど、文化面でも大きな足跡を残していますが、その大帝国の片隅でこんな可愛らしい小作品を作った市井の人がいたというのは、想像するだけでもなかなか微笑ましいことです。

 母子像は、赤ちゃんを抱いたお母さんが胡坐をかいて座っているのですが、赤ちゃんが少し大きすぎて、お母さんは大変そうです。この妙な釣り合いの悪さや造形が平板なこと、背面の処理が殆どなされていないことなど、全体として素人の作品という雰囲気が漂っています。

 楽人座像は、楽器を抱えた人物が、これも胡坐をかいて座っています。この楽器は、バルバトとかウードとか呼ばれたもののようです。胴の前面が平らで、後の共鳴部分が丸く膨らんでいて、弦を張る頭の部分は、わが国の琵琶と同じように後方に折れ曲がっています。弦を弾いて演奏したことは、楽器の上に残っている手の具合から推測されます。この像は、恐らく演奏中の様子を描写したのでしょう。

 この二つの像は、同じような被り物と頸飾りを着けていて、作りも似通っていますから、多分、対になった組み合わせ像として、同時に作られたと思われます。この頭巾の様な被り物と首の周りの飾りは何なのか、よく解りませんが、家庭内の一場面と考えれば、子供の誕生祝のような少しあらたまった席のためのおめかしなのかも知れません。並べて置いて眺めると、父親が奏でる音楽を母と子が聴いている、という雰囲気に見えます。そう考えると、この二つの像は、子供の育ってゆくのを喜ぶ両親の姿を捉えたお祝いのスナップと見えなくもありません。素朴でちょっと不器用なつくりの一対の人形は、1000年の時を隔てて、我々にほのぼのとした家庭の味を伝えてくれます。

 このような人形が偶像禁止のイスラム圏で作られたことにも興味を惹かれます。この人形に限らず、当館の保有するイスラム期ペルシアの遺物の多くにも、人物や生物を象ったり、それらの模様を配した作品が多く見られます。プライベートの生活空間で使っていたものだと説明されますが、それにしては数が多いような気がします。宗教性の無い場では動物や人物の表現も許容されたとか、偶像崇拝を禁じたのであって、拝まなければ良かったのだとか、色々な説明もありますが、最近のイスラム過激派がセッセと古代遺跡の彫刻などを破壊しているのを見ると、そうとばかりも言えないように感じます。 平成28年6月29日  羊頭

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