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2016.04.25

今月の一品⑬モザイク女性小像

 古代エジプトの衣装を示す展示ケースの端にチョコンと置かれている6cmちょっとの小さな像です。ガラスでできています。急いでいる方は見逃してしまうほど目立たない品ですが、実に精巧に作られています。

 この作品を取り上げるかどうか、実は大変に迷いました。というのも、この品の評価額が大変に低く設定されているからです。ということは、これを鑑定した人が、「この作品は贋作の可能性がある」と判断したことになります。この品を入手した経緯は必ずしもハッキリしていませんし、私には、この作品の真贋を判断するだけの眼力もありません。知らずに、偽物を宣伝するのも、本意ではありません。でも、これはとても魅力的な作品です。それに、他の博物館で行われた古代エジプト専門の展覧会にも貸し出されたことがありますから、古代エジプト研究の専門家にもそれなりに評価されている品物なのです。そこで、以上のような事情を明らかにした上で、ご紹介して、皆様に良く見ていただこうと考えました。

 解説書には、この作品が古代エジプトのガラス工芸技術の高さをうかがわせるものとして紹介されています。古代エジプト最後の王朝、プトレマイオス王朝期の物で、お棺や家具のような大きなものに嵌めこむための象嵌用の装飾品だということですが、そんな部品であることを感じさせないほど、これ自身で完結した出来映えです。胴体の部分は体の線に沿ったピッチリした衣装をまとっており、その黒白の模様はガラスの小片を交互に配置して作り出してあるそうです。腕や頭も別々に作られたパーツをつなぎ合わせてあるということですが、そんなことを感じさせないほど全て隙間無く滑らかに仕上がっています。ここまでキチンと組み合わせるのは、とても根気の要る作業だったと想像されます。判り難いのですが、頭には上エジプトの象徴であるハゲワシの冠を被っているとのことで、これは女王か女神であることを示すそうです。右手には杖を持っていたと考えられ、左手は礼拝のために掲げているようです。古代エジプトでは、両掌を相手に向けて掲げるのが礼拝の基本的な形ですが、片手が何かで塞がっている時には、空いている方の手だけを掲げて礼拝したそうです。そうだとすれば、右手に杖を持っていたという想定は、理屈の合う話です。

 これほど綿密に作られた作品ですから、仮に偽物だとしても、プトレマイオス朝の技術レベルに近付こうと努めた作者の技に敬意を払っても良いのではないでしょうか。   

平成28年4月25日                         羊頭

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