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2016.03.02

今月の一品⑪テラコッタ製長靴型リュトン

 月遅れになってしまいましたが、今月の一品をお届けします。先月に続いてウラルトゥのリュトンです。今月は、長靴です。以前に紹介したアッシリアの武人像の横のケースに展示されています。

 人類が足を保護するために靴などの履物を使い始めたのはかなり早い段階だったようで、その中に、防寒などの観点から足とふくらはぎを覆う長靴風のものもあったようです。ただ、そのような初期の長靴は、足部と脚部を覆うだけの物で、履き心地も悪く、あまり丈夫でもなかったようです。ところが、このリュトンの長靴はしっかりした作りで、近代の軍隊の長靴と言っても通用するような出来です。紀元前8世紀頃の人々にとっては、革の加工品は大変な貴重品だった筈ですから、こんな長靴を誰がどんな機会に履いたのかは大変気になります。同じケース内にある画の中で戦闘中のアッシリア兵が裸足であったり、横の壁に掛けてあるニムルドの大壁面図に描かれている精霊とアッシュルナツィルバル二世王がサンダル履きだったりした頃に、このような長靴を履いていたのは、普通の人ではなかった筈です。

 「古代の人々は、お酒や水などをリュトンに通すことによって清められると信じていた」と前回書きましたが、この長靴の中を流すことがどうして清めの行為になるのか、ちょっと不思議な気がします。水虫だらけの足を突っ込んで泥道を歩く長靴と思う所為かもしれませんが、お祓いのイメージにはなりません。現在でも長靴型のジョッキでビールを飲むではないか、という反論がありそうですが、長靴型のジョッキはドイツ起源のお遊びということですから、かなり感覚に違いがあります。でも、すごく偉い人か、場合によっては神様が、特別な機会に履く特別な物ということになれば、それを象ったものを作って、その中を通せば清められるという感覚も、少しは納得できます。

 この長靴で目を引くのは、靴の甲の付け根の部分に付いている留金のような物と、足部分とふくらはぎ部分の間の継ぎ目、そしてこの長靴の爪先が跳ね上がっていることです。跳ね上がった爪先で思い出されるのは、ヒッタイトの浮彫像です。ヒッタイトの人物像は、爪先の跳ね上がった靴を履いています。ウラルトゥは、ヒッタイトの後に、アナトリア東部に成立した国ですから、或いは影響を受けたのかも知れません。あるヒッタイト学者は、「爪先の跳ね上がった靴は、雪の上を歩くのに適している」と主張して、ヒッタイト人が寒い北の方から来たことの論拠としています。スキーの先端が跳ね上がっていることを考えれば一理あるようにも思えますが、だからといって年がら年中こんな靴を履いていたと考えるのもちょっと不便で不合理なような気がします。

 たかが長靴一つでも、色々と考えさせられることがあるものです。                                        平成28年3月2日   羊頭

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