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2015.11.20

今月の一品⑧アクエンアテン王頭部

 初期のガラス製品の展示コーナーにある、小さい藍色の横顔像です。これは発色素にコバルトを使っているそうですから、本物のコバルトブルーということになります。これも石黒孝次郎氏の収集品のひとつです。

 アクエンアテン王というと、古代エジプト屈指の美女ネフェルティティのご亭主でツタンカーメンのパパであるとか、宗教改革を推し進めてテーベからアマルナに首都移転したとか、あまりにも改革を急ぎすぎて異端者扱いされ、正規の王名表から削除されたとか、とにかく話題豊富な王様です。

 そんな王様の横顔像ですが、一目見て印象深いのは、その馬面風の描写です。アクエンアテン王とされる他の像も、大小にかかわらず殆どがこのような顔立ちに造られていますから、ご本人は、かなり特徴的な顔立ちだったのでしょう。ただ、同時に言われているのは、このような馬面風の描写は、彼の治世において盛んになったアマルナ様式という芸術手法を反映したのもだということです。アマルナ美術は、それまでの決まりきった様式にとらわれた手法から解放されて、より写実的で自由な描写方法を取り入れたと言われています。ですから、定型化された古代エジプトの彫像と比べて多少の違和感があるのは自然なことかも知れません。とは言っても、このアクエンアテン王の顔立ちは、いささか漫画的で、ちょっと誇張が過ぎるのではないかと感じてしまいます。有名な奥さんのネフェルティティの頭部像(ペルガモン博物館蔵)は、あまりそんなことが気にならない素晴らしい出来映えですから、作成者によって、あるいは時によって、あるいはモデルによって、色々実験的な描写が試みられたのかも知れません。

 このガラスの小品は、「調度品や装飾品の象嵌細工の一部として作られた」と解説されています。王様の横顔を象嵌にして嵌め込んだ物とはどんなものだったのでしょうか。神様と同格視される王様の顔ですから、それが取り付けられていた品物も、鍋釜のような日常使われる物品ではなかった筈です。宮廷内で使われる物であるとしても、相当厳かな場所で、或いは厳かな機会に使われた物だったと思われます。玉座のような椅子の飾りの部分だったのか、冠の横に嵌め付けられたものだったのか、あるいは、宮廷衣装の留金の飾りだったのか、想像してみるのも面白いことです。そして、それが何故外れてしまったのか。あるいは取り付ける前に遺物となってしまったのか。アクエンアテン王の波乱万丈の治世を併せ考えると、色んなお話ができそうです。                       羊頭

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