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2015.06.01

今月の一品③ シリア出土の鉢形土器

 この土器は、シリア政府から、平成11年に中近東文化センターに寄贈されたものの一つで、一般展示室とは反対の「日本と中東の交流」コーナーに展示されています。センターが所有する最も古い土器です。

 土器の起源というのはなかなか解り難いのですが、新石器時代(1万年以上昔)に、地面に掘った貯蔵用の穴を粘土で補強したり、ちょっとした泥人形のような工作物を作ったりしていた「技術」が前駆となって、焼成された土器の製作に発展して行ったと言われています。中近東地域では、大体紀元前7千年紀に土器が登場したとされています。

 ここに展示されている鉢形土器は、筑波大学が1990年から92年まで発掘調査をしたシリアのテル・アイン・エル・ケルク遺跡で発掘されたものです。推定で紀元前6千年紀の物とされていますから、最も古い土器の一つと言えます。

 やや厚手の単純武骨な形は、いかにも最初期の土器らしく、手でこねて作った感じがよく出ています。並べて展示されているエル・コサック・シャマリ遺跡出土の彩文土器(紀元前5千年紀)と比較すると、生地の厚いことといい、形状の簡単なことといい、その素朴さが際立っています。

 かなりの部分を補修で補ってありますが、出土遺物の補修の例としてもなかなか見応えがあります。この補修という作業も、補修後の物を見ると簡単なようですが、実は、出てきた沢山の遺物破片の中から、一つの固体を構成していたものだけを選り出した上で、各片の形状をにらみ合わせながら、ヒントの無い立体型のジグソーパズルのように形を復元するのですから、洞察力と根気の要る意外に難しい仕事です。

 この土器を眺めながら、我々の遠い祖先がこれをどのように使ったのか想像してみるのも楽しいことですが、実はこれが何に使われたのか、ハッキリとは解っていません。調理用という説がありますが、そうであれば、普通は、底のあたりに煤がついています。でもそんな痕跡は見えません。あまり使わないうちに割れてしまったのかもしれませんから、断定は出来ませんが。貯蔵用とか、輸送用とかの説もありますが、それにしてはちょっと小ぶりに過ぎるようです。スープを飲んだり、小麦などの穀物の一定量を測ったりするのに丁度いいサイズに見えますが、如何でしょうか。

 シリアには、このような遺物の出る遺跡が沢山あって、考古学的にはとても興味を引く地域なのですが、現在イスラム系の過激派などが暴れまわっており、遺跡への立ち入りなど到底できません。残念なことです。                                (羊頭)

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