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2019.08.28

今月の一品(53) 獣文タイル

 今回の一品は、展示順路の終わりの方にひっそりと展示されているアフガニスタンの遺物「獣文タイル」です。二枚並べて置いてありますが、アフガニスタンのガズニで出土した、1112世紀のガズナ朝時代の物と記録されています。ガズニは、カブールとカンダハールを結ぶ途中の要衝で、あの三蔵法師の「大唐西域記」にも「鶴悉那」の標記で記されています。この地域は、ペルシアやアレキサンダー大王、チムールやジンギスカンなどが行き交った所であり、また、仏教やヒンズー教そしてイスラム教などの影響も重なり合って、文化・文明の様々な姿が交錯している所です。「大唐西域記」にも「種々の神を祀るが仏教も信仰している」と書かれています。余談ですが、大唐西域記は、この地域の人々について、「心に詐りが多い」とか「道理に暗い」などとかなり辛辣です。きっと旅行中に不愉快な目に遭ったのでしょう。そして、そんな苦々しい経験談が換骨奪胎されて、西遊記の妖怪噺になったのではないかという気がします。

 このようなタイルは、押し型で大量に作られ、王宮の壁面装飾に用いられたと伝えられていて、ライオンや山羊、犬、ウサギなどの模様が多かったそうです。小さいタイルの図柄は、耳の長い所から見ても、ウサギと思われ、それが蔓草を図案化した模様で囲まれていますから、この説明にピッタリ当て嵌まります。

 問題は、大きいタイルの方です。上部から右側にかけて汚損されていますが、図柄はしっかりと残っています。頭は一つで胴体が両側に分かれた生物が、壺のような台に前足をかけた姿で描かれています。胴体や脚は、普通にいる動物のもののように描かれていますが、長い尻尾の先が三つに分かれているところは、悪魔的で不気味です。何より特徴的なのは、中央上部でこちらを向いている顔です。柔和な表情に見えますし、鼻がキッチリ浮き出していますから、人の顔のようにも見えますが、両側に突き出した尖った耳は、人間の物ではありません。スターウォーズのヨーダの耳によく似ています。顔もそう思って見ればヨーダに似ていなくもありません。同じ頃のペルシア陶器に、神獣とか聖獣として人面獣身の図柄が描かれたものがあり、そういったものの影響がこの地域に及んでいた可能性は考えられますが、ペルシア陶器の神獣の絵は、ハッキリと人間の顔を持っており、胴体がライオンなどになっているだけですから、このヨーダ似の顔と二つの胴体を持った生き物とは、かなり印象が異なります。このタイル作った人がどの生物を基に、何を表そうとしたのか、大きな謎です。

 でも、三蔵法師がこの模様のタイルで飾られた部屋に泊まって、この優しそうな妖怪の夢を見たと想像するのは、子供の頃、孫悟空の筋斗雲を欲しがった者に許される特権だと思います。

 

令和元年8月                     羊頭

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