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2019.03.29

今月の一品(48)象牙製飾板

 今回の一品は、以前イランのガレクティ遺跡の模型のあった所に新しく展示された象牙細工です。イラク北部の二ムルード遺跡で英国の考古学者マックス・マローワンが発掘・発見した物です。1984年に三笠宮殿下がマローワン夫人のバーバラさんを通じて入手されました。


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 この象牙細工は、紀元前9世紀から7世紀の間に製作されたとされています。この時期の二ムルードは、いわゆる新アッシリア帝国の中心都市として、オリエント全域に睨みを利かせて、大いに栄えていたようです。

象牙は、色々な家具や調度品、武器や馬具の装飾に使われる金箔を被せた細工物の土台に使い易い素材として、工芸家に重宝されていたようです。当時メソポタミアにいたシリア象は、象牙を採るために乱獲され、絶滅してしまったと伝えられているほどです。しかし、象牙自体にはそれほどの価値が認められていなかったようで、アッシリアが滅亡した時には、そのような装飾から金だけが剥ぎ取られ、下地の象牙作品はガラクタとして捨てられたと言われています。マロ―ワン氏が発見した象牙作品も、井戸の底などに積み重なって放り込まれていたということです。

 真ん中に展示してある人面有翼獣の上半身と下半身の浮彫は、どちらも脚の下部が欠けているなどの共通点があり、発掘された当時から一体と見られていたようです。この形の人面有翼獣の巨大な像が、アッシリアの宮殿を飾っていたことはよく知られており、当時人気の題材だったようです。スフィンクス自体、エジプトの影響の強いことを感じさせますが、この浮彫は、ファラオのような頭巾を被り、額にコブラの飾りの痕跡を残しているなど、エジプトの雰囲気を色濃く持っています。


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一方で、この像のアーモンド形の眼や飾りの前垂れは、フェニキア風だということです。そのような観察から、多くの研究者が、この作品は、エジプトと関係の深かったフェニキアからの戦利品か朝貢品の家具に取り付けられていた飾板と考えています。この浮彫の上半身後部に、同じ象牙で作った支え棒が見えますが、これが背景となる家具類とつながっていた痕跡なのだそうです。

 ところで、このマロ―ワンの最初の夫人が、ミステリー作家として有名なアガサ・クリスティーです。彼女の自伝を読むと、マロ―ワンと一緒にニムルードなどの発掘現場に赴き、記録の整理をしたり、写真を撮ったりして、大いに発掘を楽しんで手伝っている様子が良く解ります。ニムルードで象牙の遺物が発見された時も、編物針や歯科医師の器具、更には化粧用のクリームを使って壊れやすい象牙作品の表面の汚れを落としたことが生き生きと描かれています。この象牙作品にも彼女の化粧クリームの名残が残っているかもしれません。

平成31年3月 羊頭

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