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2018.10.30

今月の一品(43)有翼スカラベとホルス

 コアガラスの展示ケースの中に、以前ご紹介した馬面のアクエンアテン王の横顔像と並んで展示されている青色の美しいファイアンスの作品です。古代エジプトでもかなり時代の下がった頃の作品ですが、あまり装飾的でもなければ、技巧も凝らしていません。遺物を入手した時の記録によれば、このスカラベと四神像は、ミイラの被服の心臓付近に、再生を祈願して縫い付けられていたということですから、それなりの地位にあった人の注文に応じて念入りに作られた物と思われますが、素朴な味の仕上がりになっています。ただ、出土地や出土状況の詳しい記録が解りませんので、それ以上の背景状況は推測できません。

 スカラベというのは、糞虫とかフンコロガシとか呼ばれるコガネムシ系の甲虫のことです。古代エジプトでは、この虫が糞を丸めて転がす様子が、太陽を押している姿を連想させるとされ、そこから発展して、太陽の運行を司る存在として崇められるようになったと言われています。特に、お天道様が毎日日没から日の出へと、この虫に転がされて生まれ変わるという解釈から、再生を象徴する昆虫という扱いをされたようです。でも、現実にこの虫が逆立ちして糞を転がしている動画などを見ると、あっちへゴロゴロ、こっちへゴロゴロと進路が恐ろしく不安定です。こんな太陽の運行では、天変地異ばかりで大変なことになりそうに思われますが、古代エジプト人は、委細構わず、想像力を働かせたようです。ただ、硬い羽の表面がキラキラと輝く種類もあるので、名称から来る汚いイメージの虫と決めつける訳にも行かないようで、そんな美しい虫が糞闘している姿を見れば、敬う気になるのかもしれません。

 ホルスと記されているのは、「ホルスの子」と伝えられる四体の神で、左から、ヒト、サル、ジャッカル、ハヤブサの頭をして並んでいます。これらの四神は、死体をミイラにする際に取り出した内臓を納める壺を各々分担して護る役割を担っているということです。ホルスは、エジプト神話の中で最も有名な神様の一人で、色々な役割を果たしますが、その中の一つが、死者を冥界の支配者オシリスの下に案内することとされていますから、その子供たちにも死後の世界に関わる仕事が与えられたのでしょう。

 有翼スカラベと記されていますから、左右に置いてある翼状の物も真ん中の甲虫本体と一体的に出土したと思われます。理屈を言えば、この翼は、甲虫類が飛ぶときに出す内翅と思われますが、本体の硬い外翅が閉じられているのに、どうして内翅が出ているのか、不自然な感じもします。もっとも、スカラベ像には、このように、外翅を閉じたまま、左右に翅を広げたデザインも見受けられますから、これもありなのかもしれません。古代エジプト人に倣って、委細構わず、作品をそのままに受け止めるのが良いようです。

平成30年10月                            羊頭

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