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2017.10.30

今月の一品(31)青釉騎馬人物像

 イスラム陶器の並んでいるケースの中にたたずんでいる騎馬像です。いわゆる銀化が進んでいて、トルコブルーの釉の色が全体的に白みがかって見えます。馬の四脚が台座の上に固定されているせいか、動的な感じはしませんが、それなりに当時の騎馬武者の装いをうかがわせる作りです。左手で手綱をまとめて持っていますが、右手の様子ははっきり見えません。少し尖った帽子と後ろが跳ね上がった服は、多分革で作られた戦闘用のものと思われます。鞍や馬具も戦闘用のしっかりとしたものを付けているように見えますが、立ち止まっている姿のためか、全体にゆったりとした印象を受けます。左腰には反りのある剣とソラマメのような形をした大きな袋を、右腰には見えにくいのですが矢筒を付けています。この大きな袋は、弓を入れるものだそうで、騎乗者の顔立ちがアジア系であることと併せ考えると、騎射が得意だった蒙古民族が、13世紀後半、中央アジアを席巻した時代の作品と推測されています。この乗り手が少し微笑んでいるように見えるのは、馬がのんびりした感じで立っているのと併せて考えれば、行軍中の小休止の場面なのかもしれません。

 一つ不思議なのは、この馬の2本の後脚の蹄に縦の線が入っていることです。蹄が2つに割れているのは、牛、豚、鹿などの偶蹄類ですが、この動物は、角もありませんし、どう見ても馬です。昔、戦場に赴く際には、ロバやラバも使ったそうですが、これらの蹄も、普通の状態である限り、割れていません。となると、この蹄の描写は何なんでしょう。蒙古民族であれば、馬の蹄が割れていないことは常識だったでしょうから、この像の作成者は、牛との付き合いばかりしていたペルシア出身の工芸家だったのかもしれません。

この像は、記録としてはイランのカーシャーン出土とされていますが、古美術収集家の石黒幸次郎氏は、イランの古美術商の間に完形品が出土することで有名なグルガン近郊のアバダン・テぺ遺跡から出たものではないかと述べています。同氏が収集した別の壺がこの遺跡から出土しており、この騎馬像もその壺と一緒に出土したという言い伝えがあるそうです

 実は、当博物館には、もう一体の少し大きめの青緑釉騎馬武人像が、展示室に入ってすぐ左のところにあります。これも1213世紀の作品とされていて、同じように、右腰に矢筒、左腰に弓袋と刀を付けています。刀も弓袋もちょっと欠けていますが、弓の形はこちらの方が良く解ります。この武人は背中に楯を背負っており、着ている物もあまり戦闘服風には見えません。また、手綱を両手で把っています。勿論、この像の馬の蹄に割れ目は入っていません。

2つの像を見比べると、類似点と相違点とが浮かび上がって、興味が尽きません。           平成29年10月 羊頭

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