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2017.07.26

今月の一品(28)アヌビス

 展示室に入ってすぐのケースに、獣脚の腰掛と並んで置いてある犬科の動物の木像です。色もマダラな痩せ犬が腹ばいになっているような姿に見えます。展示札に「アヌビス」としか書いてないので、アヌビスという種類の動物の木像だと思われた方もおられるかもしれませんが、れっきとした古代エジプトの男の神様の姿で、アヌビスというのはその神様の名前です。もっとも、アヌビスというのはギリシア語の表現だそうで、古代エジプト語では、インプウ又はアンプウと呼ばれたそうです。エジプトと言うと、乾燥した国というイメージがありますから、木製品はあまり無かったのではないかと考えがちですが、隣の獣脚の腰掛や傍にあるお棺の蓋など、木で作られた遺物も結構あります。

 アヌビス神は、犬科の動物の頭を持つ人型の神像(半獣半人像)として壁画などに描かれていることが知られていますが、この木像のように動物のままの姿で表されることも多いのだそうです。大きな耳と細長く尖った顔つきから、ジャッカルを模したと言われることが多いようです。ただ、アヌビス神は、基本的に黒い頭()をしているので、ジャッカルにそぐわないという声も多くあります。このアヌビス像もかなり色が剥げていますが、残っている色からは、全身が黒く塗られていたと推測できます。そういった点を重視する研究者は、ジャッカルよりも人の生活に密着して暮らしていた犬、中でも黒犬がモデルだと言います。既に絶滅した犬科の動物だという説を唱える人もいるほどです。また、ジャッカルの尻尾はキツネのように割にフサフサしていますが、このアヌビス像の尻尾は犬のように巻き上がっており、それほどフサフサしていません。他のアヌビス像の尻尾も、フサフサしたものと割に細いものと色々あって、ジャッカルと決めきれない感じもあります。

 アヌビス神は、冥界の神様です。古代エジプトの遺物や壁画は、お墓から見つかることが多いので、必然的に冥界に関わる物や情景が多く、アヌビス神も冥界の象徴として、相対的に多く見かけます。特に、遺体保存(ミイラ作り)の名人として知られており、死体の上に屈みこんで死者をミイラにする作業をしている黒い犬様の頭を持った神様の姿は、皆様もご覧になったことがあるでしょう。その他にも、冥界にやって来た新参の死者を案内したり、死んだ人の生前の行いを秤にかけて評価したりしている姿もあり、冥界にかかわる様々な仕事をしていたことが解ります。

 この像が腹ばいになっているのは、死者を護るために、お棺又はその外郭の蓋の部分に取り付けたからだと言われます。確かに死者を案内する神様がすぐ近くにいてくれれば、死んだ者としては心強いかもしれません。でも、犬が嫌いな死者だったら、あまり心穏やかではなかったかもしれません。    平成29年7月26日  羊頭

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