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2017.04.28

今月の一品(25) 儀仗兵像浮彫

 古代の大帝国アケメネス朝ペルシアの全盛期を象徴する儀仗兵の横顔のレリーフ断片です。先月ご紹介した「ラスター彩人形タイル」の右隣の大型展示ケースに入っています。裏打ちの布地にはめ込まれていますから、大切な物という雰囲気がありますが、それもその筈、この断片は、王宮都市ペルセポリスの宮殿を飾っていた彫像の一部だったと言われているのです。この彫像断片を入手した石黒孝次郎氏自身が、ペルセポリス遺跡を訊ねた際に、アパダナ(謁見の間)の東階段の上から4番目の像の欠落している部分にこれが当て嵌まるとの心証を得た旨記しています。

 髪の毛や頬髯、あごひげを螺髪のようにキチンと巻いて手入れをした兵士の風貌は、いかにも王宮を守る緊張と誇りを表しているように見えます。眉や口元も丁寧に彫り込んでありますし、目の周りには細く隈取りされている様子までが線彫りされていて、当時の石工さんたちが一生懸命宮殿建設の仕事に取り組んだ様子が目に見えるようです。弓を肩にかけ、矢筒を背負っています。顔の前にある縦の棒は、他の彫像から推測して、槍の一部と考えられます。これらが当時の兵士の標準装備だったのでしょう。

 先日、英国の女性の古代遺跡研究者が、この断片を見るために、態々当博物館を訪ねて来ました。彼女も、石黒氏と同じように、この断片が、ペルセポリスのアパダナの階段横の壁に刻まれていた一連の彫像の一部分だと言っていました。彼女がタブレットで見せてくれた写真でも、この儀仗兵浮彫は、壁面を覆っていた浮彫の欠けた部分にうまく嵌るように見受けられました。ただ、その写真は、浮彫が無くなった後の壁面を写したものでしたから、「此処にピッタリ嵌るのヨ」と言われても、直ぐに「成程!」と頷くわけにも行きませんでした。彫像の様式や石の材質などから判断して、この時代のこの場所に当てはまることは、殆ど確実と言えるのでしょうが、本当にそこに当て嵌まると言い切るためには、欠落部分の断片を全て継ぎ合わせて確認しなければなりません。それを証明しようという彼女の苦労も並大抵のことではないと思います。

 そういう考証はともかくとして、この浮彫像は、確かに宮殿を飾るのに相応しい出来栄えで、重々しい雰囲気を持っています。壁際にこの浮彫のような兵士が立ち並んでいる階段を、別の壁面に描かれているような外国からの使者が、贈り物を携えて静々と上って行くことを想像すると、この威厳のある顔立ちの浮彫が古代の大帝国の威儀を示す儀仗兵を映した作品であるということも納得できるような気がします。   平成29年4月26日  羊頭

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