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2017.03.03

今月の一品(23)シリア出土の彩文土器

 この土器は、第3回の本欄に登場した鉢型土器と対になって展示されています。鉢型土器と同様に、シリア政府から、平成11年に中近東文化センターに寄贈されました。6千年紀の鉢型土器と比べると、5千年紀のこの土器は、手の込んだ幾何学模様が絵具で描かれていることに加えて、形状がかなり薄手ですっきりと仕上がっていることが目につきます。

 この彩文土器は、シリア北部のエル・コサック・シャマリという遺跡から出土しました。この遺跡がダムで水没することになったため、1994年から97年までかけて、東京大学が現地調査を行いました。その結果、紀元前6千年紀頃からの集落の跡が重なって発見され、農耕や牧畜を行っていたことも明らかになりました。採集、狩猟に依存して暮らしていた人類が、動植物を育てて収穫することを覚え、そのための仕組みとしての集落社会を作り始めた時期を物語る遺跡ということになります。

 その遺跡の中に、土器の工房跡がありました。そこには回転台しかなくて、轆轤は見当たらなかったそうです。この彩文土器の時代は、ウバイド期と呼ばれ、その後期には轆轤が使われ始めたと言われているのですが、此処エル・コサック・シャマリでは未だだったようです。私は素人なので、土器を見て、轆轤で作った物かそうでないのかを判別する眼力もありませんし、展示ケースの中にある物に触ったり、引っくり返したりもできませんから、正確なことは解りませんが、確かに、この土器も見事な対称形に作られてはいるものの、回転台を使って丁寧に仕上げれば、このくらいはできそうにも思えます。遺跡からは、土器の形を整えるため使う土器や石器の工具も見つかったそうですから、工房に属したこの時代の職人たちにとっては、そういう作業は案外手慣れたことだったのかもしれません。土器の腹の膨らんだ部分に横に走る線が見えますが、これも回転台に乗せて仕上げをした痕跡かもしれません。

 しかし、これも何に使われたのか判然としない不思議な土器です。高台の替わりに置かれているアクリルの輪に載っている底の部分をよく見ると、丸くなっていて、置いたときにいかにも座りが悪そうです。藁の上とか、木枠で支えるとかすれば安定するでしょうが、日用品としていちいちそんなところに置かなければならないのは、かなり使い難いと思われます。文様もそれなりに工夫して描いてありますから、何か飾り物として使ったような気もします。考古学者は、何か解らない物が出て来ると、すぐ神器とか、祭具とか言いたがりますが、これは本当にそういう物の一つだったのかも知れません。     平成29年3月3日  羊頭

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