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2016.11.30

今月の一品⑳水注

 展示室の「麦とパン」のコーナーで、イスラームの食器の右端に展示してあるすっきりしたデザインの水差しです。時代を経て黒ずんでいますが、真鍮製とありますから、作られたときはトランペットのような金色に輝いていたことでしょう。

 デザインがすっきりしていると言いましたが、刻まれている模様はかなり込み入っています。黒ずんだ色合いと光の具合でかなり見難いのですが、虫眼鏡を持ち出して、よく眺めると色々面白い発見があります。

 まず、水の注ぎ口の上部には、カエルのような生物が張り付いています。カエルだとすれば、なんとなく製作者のいたずら心が感じられて面白いのですが、私の勝手な想像かもしれません。

 頸の部分には、注ぎ口の左右に目玉をぎょろつかせた動物が浮き出ています。これも私は勝手にライオンだと思い込んでいます。

 水注の肩の上面には、アラビア文字の模様化したものが描かれています。

 胴の側面は12面に区切られていて、それぞれに4段の模様が高さを揃えて刻まれています。一番上の肩に近い部分には、左を向いた胴長の動物と円形にデザインされた正体不明の模様が、区切りごとに交互に刻まれています。胴長の動物は、そのうねった姿勢からネコ科の動物のように見えますが、他の動物かもしれません。2段目と4段目には、アラビア文字の模様があります。これらのアラビア文字が読めれば、この水注の由来などもある程度読み解けるかも知れませんが、残念ながら諦めざるを得ません。3段目には、木の葉型の枠内に左向きの鳥が羽を広げて鬨を告げているような姿が描かれています。これはすべての区切りで同じ絵柄が同じ向きに繰り返し使われていて、交互に変化をつけることの多いこの種の細工物にしては、珍しい感じがします。

 この水注は、13世紀のペルシア・ホラサーンで作られたと伝えられています。この水注の頸の部分のライオン像は内側からの敲き出しで作られており、この頚部は下の胴体へのはめ込みになっているようですが、全体的にそれほど複雑な細工ではありません。ただ、この時期のペルシアは、モンゴル王朝(イル・ハーン朝)への移行期にあり、イスラームが浸透した時代なので、こんなに具象的な作りこみをしているのには、改めて興味をそそられます。細かく見るとあれこれ不揃いな部分もありますが、あまり文化的に良好ではない環境の中でこのような作品を生み出したと考えれば、ペルシアの芸術的要素は真に基盤の広いものであったということができるでしょう。                     平成28年11月30日 羊頭

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