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2016.05.31

今月の一品⑭ラスター彩鳥紋細頚瓶

 陶器類の展示の真ん中に、ケース一つを独占して展示されている瓶です。均整の取れた形、バランス良く配置された図柄、ラスター彩特有の美しい輝き、当館の保有するラスター彩陶器の中でも優れた作品で高い評価を得ています。13世紀のイランで作られたと伝えられていますから、ラスター彩陶器の後期の熟達した技術を反映するものと言えましょう。

 ラスター彩というのは、中近東地域で9世紀から14世紀まで製作された、金属風の光沢のある装飾模様を特徴とする陶器です。その貴金属を思わせる光沢が多くの人に好まれ、大変珍重されました。この陶器は、特定の製作集団によって作られていたようで、イラク、エジプト、イランと産地が転々と変遷しているのは、製作集団が安定を求めて移動したからではないかと言われています。この陶芸技法は、その後中近東地域では忘れ去られてしまい、幻の技術として、神秘的に語られていました。それを、人間国宝の陶芸家・加藤卓男氏が復活させたことは、知る人ぞ知る有名な話です。

 技術的な詳細は私には解りませんが、ラスター彩は、一度素地となる色で焼き上げた上に、金属風の発色をする塗料で絵付けをして再度焼き上げるという手の込んだ作り方をするそうです。焼き物は、火の具合が難しく、名人でもなかなか満足の行く作品ができないそうですが、手間のかかる造り方のせいか、現在伝わっているラスター彩作品には、ちょっとした欠陥のある物が多いようです。この作品も、あらを探せば、瓶の前側と後ろ側でかなり色の調子が異なっているのが気になります。陶器の色が部分的に薄いのは日常使用の結果の色落ちが多いと言われますが、この瓶の場合には、一方の面だけをそんなに磨くこともないでしょうから、やはり窯出しの時からこんな色調だったと考える方が自然なように思います。また、後ろ側の肩の辺りに、横一文字の小さな傷も見られます。この傷がどうして付いたのかは全く解りませんが、完璧主義の陶芸家だったら、すぐに割ってしまうかもしれません。こういった欠点はあるものの、全体的に見れば、やはり優れた美しい作品です。

 瓶を巡る5つの輪の中に、同じデザインの2羽の鳥が描かれ、隙間は植物の模様とアラビア文字で埋められています。この2羽の鳥の模様は、私には小鳥に餌をやる親鳥に見えたのですが、解説書には小鳥を襲う鷹と書いてありました。アラビア文字の文からそのような解釈になるのでしょうが、知るべくもありません。でも、部屋に花を飾る花瓶として使うのだったら、親子鳥の方が気持ちが落ち着くと思うのですが。

    平成28年5月31日   羊頭

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