公益財団法人 中近東文化センター|中近東の歴史的文化の研究と発表

ニュース

ニュース

HOME > ニュース一覧 > 今月の一品④トトメス3世像浮彫

2015.07.01

今月の一品④トトメス3世像浮彫

 展示室の入口にある「トトメス3世像浮彫」は、古代エジプトの雰囲気を良く顕しているものの一つです。この品は、古美術の収集家として有名な石黒孝次郎氏から当中近東文化センターに寄贈されました。記録では、エジプトのルクソールにあるハトシェプスト女王の葬祭殿(デル・エル・バハリ)で出土したとされています。学術的に言えば、デザインから判断して、トトメス2・3世時代の特徴を備えていて、この時期のいずれかの王の肖像である可能性が高いということですが、当館の記録では「トトメス3世像」となっていますので、そのつもりで眺めることにしましょう。また、この浮彫のいくつかの彫線がきれいに刻まれていない点を指摘して、習作乃至は後世作ではないかと指摘する専門家もおられますが、それはそれとして、古代エジプトの雰囲気を味わっていただければ幸いです。

 トトメス3世は、紀元前15世紀に、上記葬祭殿の建設者で継母のハトシェプスト女王の後を受けて王位に就き、古代エジプトの版図を最大に広げた名君として知られています。軍事的な才能に恵まれた王様であったと言われ、積極的に周辺地域に遠征したそうです。現在のイスラエルで、この地方の部族連合軍を破った「メギドの戦い」は特に有名で、歴史上記録の残っている最古の戦争として語られています。

 一般に、古代エジプトの肖像(画)は、目が正面、顔は横向き、胴体は正面、脚は横向きという類型が多いのですが、そんな中でも、よく見ると意外に写実的なところが見つかります。写真や肖像画の無いこの時代、こういう浮彫や石像の製作者は、その作品に王様の雰囲気をできるだけ写し取ろうとしたでしょうから、少し小さめの耳、ちょっと厚めの唇、丸みを帯びた鼻などは、トトメスさんの風貌を映している可能性があります。また、所々にうっすらと彩色の跡も見えます。製作当初はもっとクッキリと色付けされていて、肖像の印象も鮮明だっただろうと思われますが、歳月とともに薄くなり、全体的に柔らかい感じになっています。勇猛な軍司令官というよりも、酸いも甘いも噛み分けた世話役という雰囲気を感じるのは私だけでしょうか。

 かぶっている王冠は、上部が切れていて判り難いのですが、ダチョウの羽飾りが特徴的なアテフ冠ではないかと言われています。前頭部には下エジプトのシンボルであるコブラの額飾りの痕跡がうかがわれ、後頭部には上エジプトの象徴のハゲワシが張り付いています。顎についている四角い棒はヒゲだそうです。このデザイン・パターンがトトメス2・3世の時代に多く用いられた図柄だそうで、作成年代を判断する大きな要素になるのだそうです。

 古代の大帝国は、こんな感じの人に支配されていたんですね。      羊頭

ニュース一覧

PAGETOP